
試合の日だけ、いつもの子どもと少し違う。朝から口数が少なく、ごはんも進まない。会場へ向かう車の中でも静かで、そのうち「なんかお腹痛い」と言い始める。ところが試合が終わる頃にはいつも通り元気になっている。
ミスを怖がるようになった。急に「練習を休みたい」と言い出した。「試合、見に来ないで」と言われた。サッカーを続けていると、こうした場面がときどき訪れます。IPPOで小中学生と話していると、そのほとんどが「サッカーが嫌いになった」わけではないと感じます。ここでは場面ごとに、親として何ができるのかを整理しました。
緊張するのはその試合を大切にしているから
子どもが試合前に緊張する理由はいろいろです。失敗したくない。勝ちたい。活躍したい。スタメンで出たい。コーチに認められたい。どれも本当でしょう。その根っこには「今日の試合を大切にしたい」という気持ちがあることが多いように思います。どうでもいい試合なら、そこまで緊張しません。
だから「今日めっちゃ緊張する」と言われた時、「緊張しなくていいよ」と打ち消そうとしなくて構いません。「そっか、それくらい今日は頑張りたいんだね」と受け止める。自分の状態を否定しなくていいと分かるだけで、気持ちは少し軽くなります。
「いつも通りでいいよ」は緊張している子には難しい注文
試合前によく使う言葉に「いつも通りでいいよ」があります。安心させるための言葉です。でも本人からすると、いつも通りができないから困っている。練習では自然にできていたトラップが硬くなり、いつもなら出せるパスを迷い、身体に力が入る。その状態で「普通にやれば大丈夫」と言われても、どうすればいいのかは分かりません。
そこで、試合前の目標をもっと小さくしてみてください。「最初の5分、何を意識する?」と聞いて、一つだけ決めます。
- 最初のパスを丁寧につなぐ
- 一度大きな声を出す
- ボールを受ける前に一回だけ周りを見る
- 守備で一回しっかり戻る
試合全体をうまくやろうとすると、意識は「緊張している自分」に向いたままです。最初にやることを一つに絞ると、意識は「今やるプレー」へ移りやすくなります。

試合前の声かけはその子に合っているかで決まる
大会の日は大人も気持ちが入ります。「今日勝ったら県大会だね」「一点取ってきて」。応援する気持ちから出てくる言葉です。会場へ向かう時点で、本人はすでに「勝たなきゃ」と思っています。そこへ結果の話が重なると、今日は失敗できない試合なんだ、という感覚が強くなります。
すべての子に効く魔法の言葉はありません。「絶対いけるよ」と強く押されると上がる子もいれば、同じ言葉で「結果を出さなきゃ」と感じる子もいます。静かにしてほしい子も、冗談を言ってほしい子もいます。
一度、本人に聞いてみるのがいちばん早いかもしれません。「試合前って、何か言われたい?それとも何も言われない方が楽?」。「普通にしててほしい」という答えが返ってくることもあります。親が良いと思うサポートと、子どもが求めているサポートは、同じとは限りません。
試合の日を「特別な日」にしすぎない
固くなりやすい子には、試合前の流れをある程度決めておくことも役立ちます。起きる時間、朝食、荷物の確認、会場までの過ごし方。毎回同じ流れがあると、今日は特別な日だという感覚を少し減らせます。
大会だからといって、家を出る直前に「今日、本当に大事な試合だからね」と気合いを入れ直さなくても構いません。いつも通り起きて、いつも通り食べて、いつも通り準備して会場へ行く。大事な試合ほど、日常の延長として送り出す。これも十分なサポートです。
緊張しやすいことはメンタルが弱いことではない
試合のたびに固くなる子を見ていると、もっとメンタルを強くしないと、と思うこともあります。けれど、緊張のしやすさと心の強さは別のものです。目指したいのは、緊張しなくなることよりも、緊張していてもプレーできることです。
これは大人でも同じです。大事なプレゼン。試験。面接。経験を積んでも緊張はします。それでも「緊張してるな」と自分の状態に気づいて、やることへ意識を戻す。子どもにとって試合は、その練習ができる場所でもあります。
失敗した日こそ途中からどうだったかを聞く
固くなって、実際にミスもした。本人は「やっぱり緊張するとダメだ」と言う。そんな日に「だからリラックスしないと」と返すと、次の試合でも同じ不安が残ります。代わりに、こう聞いてみてください。「最初は緊張してたけど、途中からどうだった?」
「10分くらいしたら普通になった」「一回ボール触ったら大丈夫だった」「声出したら楽になった」。こうした発見が出てくれば、自分は緊張する人だ、という話では終わりません。緊張しても、こうすればプレーできる。次の試合で思い出せる材料になります。
「ミスしないでね」が目標をすり替えてしまうことがある
失敗を怖がるようになった子が本当に怖がっているのは、ミスそのものではないことがあります。ミスした後に起こること。コーチに交代させられる。チームメイトに何か言われる。帰りの車で親に聞かれる。怖いのはそちらだったりします。
送り出す時の「ミスしないでね」「今日は落ち着いてね」も、繰り返されると効いてきます。ミスをしないことが今日の目標になってしまうと、子どもは失敗しない選択ばかりを選ぶようになります。パスは横と後ろだけ。仕掛けない。挑戦して取られるくらいなら、触らない方が安全だからです。
ミスした時は「あの時何をしようとしたの?」
試合でボールを失った場面について聞くなら、意図から入ると話が続きます。「あの時、何をしようとしたの?」。前に運ぼうとしていたのか、味方を探していたのか、逃げようとしていたのか。狙いが分かれば、次に直すところも変わります。
試合後に、挑戦を一つ探してみるのもおすすめです。ミスの数を数える必要はありません。取られてもいいから前を向こうとした場面。一度失敗した後に、もう一回同じことをやった場面。そこを見つけて言葉にすると、挑戦は減りません。
家庭まで評価の場所になると、子どもはサッカーから離れられる時間がなくなります。チームではコーチに評価され、スクールでも見られている。家でもプレーの採点が続くと、休むところがありません。結果が良くても悪くても「おかえり」と言ってもらえる場所であること。それだけで役割は十分です。
試合の帰り道は話す場所というより休む場所
試合をずっと観ていた保護者だからこそ、気づくことはたくさんあります。ボールを簡単に失っていた。もっと前を向けそうな場面があった。そして帰りの車で「あの場面、なんでパスしたの?」と話してしまう。責めたいわけではありません。上手くなってほしいから出てくる言葉です。
一方で、ミスをした本人は、大人が思っている以上にそれを覚えています。試合後にコーチから振り返りがあり、その後すぐ家庭でも指摘が続くと、帰り道まで反省会になります。正しいアドバイスでも、受け取れるタイミングでなければ届きません。

「今日どうだった?」も、疲れている子には答えにくい質問です。「別に」「普通」で終わっても、無理に広げなくて構いません。「お疲れさま」「お腹空いた?」くらいでも十分です。サッカーの話をしない帰り道があっていい。本人から話し始めたら、その時に聞けば間に合います。
褒めるなら結果よりも過程を
良い試合だった日に「2点も取ったね」と言うのは、もちろん嬉しい言葉です。あわせて、本人がコントロールできた行動にも目を向けてみてください。
- 最後まで戻って守備をしていた
- 何回もボールを呼んでいた
- 失敗した後、もう一度同じことに挑戦していた
こうした部分は、ゴール数や勝敗と違って、本人の努力で増やせます。結果が出なかった日にも認められるものがあると、活躍できた日だけ褒められる、という状態になりにくくなります。
「練習を休みたい」と言われた日の考え方
行きたくない。この言葉の中身は、日によって違います。単純に疲れている。学校で嫌なことがあった。コーチに怒られた。うまくいっていない。友達と気まずい。理由がない日もあります。どれなのかで、やることは変わります。
一日休んだだけで逃げ癖がつくことは、まずありません。むしろ、疲れているのに休めない状態が続くほうが、サッカーそのものが嫌になっていきます。
そして、休むと決めた日は、しっかり休ませてください。休ませた罪悪感から「じゃあ家で自主練しよう」となると、身体も気持ちも休まりません。休む日は休む。それでいいと思います。
家では行きたくないと言うのに行けば楽しい子もいる
家を出るまでは渋っていたのに、迎えに行くと笑って出てくる。この形はよくあります。この場合、行きたくないのはサッカーではなく、出かける前のひと山だったりします。送り出し方を少し変えるだけで解決することもあります。
「見に来ないで」と言われたら
ある時期から急に言われることがあります。親の視線で力が出る子もいれば、見られていると緊張する子もいます。まずは理由を問い詰めず、一度受け止めてください。「分かった」と言ってから、後日あらためて軽く聞くくらいで十分なことが多いです。
見に行くことと、応援することは、実は別のものです。会場の隅で静かに見る。途中から行く。今日は行かずに、帰ってきてから話を聞く。応援の形は子どもの成長とともに変わっていきます。
「今日は見に行っていい?」と聞ける関係をつくっておくと、その都度決められます。行っていい日と、来てほしくない日があるのは自然なことです。
様子を見ておきたいサイン
ここまでは、心配しすぎなくていい場面の話です。一方で、普段の子どもをいちばんよく知っている保護者だからこそ気づける変化もあります。次のようなことが重なっている時は、少し様子を見てください。
- サッカーの話だけでなく、家でも極端に元気がない
- 練習の日になると、明らかに表情が暗くなる
- 行きたくないが何週間も続いている
- 食欲や睡眠など、普段の生活にも変化が出ている
- 特定のチームメイトやコーチの話だけを避ける

その時も、迫らないほうが届きます。「何があったの、全部話して」ではなく、入り口だけつくる。「最近ちょっと元気ないように見えるけど、何か困ってる?」。そして「今は話したくなかったら、それでも大丈夫」と添えておく。必要になった時に戻ってこられる場所を残しておくことが、結果的にいちばん早い場合があります。
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プレーの中身について聞きたい時は、「練習ではできるのに試合でできない」を変えるで、試合後に使える質問の形をまとめています。
サッカー未経験で試合の見方から知りたい方は、サッカー未経験の親が家でできる関わり方から読んでみてください。
まとめ
緊張する。ミスを怖がる。休みたいと言う。見に来ないでと言う。どれも、サッカーが嫌いになった合図とは限りません。うまくなりたい気持ちがあるからこそ出てくる揺れでもあります。
親の側にできることは、そう多くありません。ただ、次の3つは今日からできます。
- 試合前は、結果の話より「最初の5分に何をするか」を一つ決める
- 試合後は、評価より先に本人がどう感じていたかを聞く
- 家庭は、結果に関係なく戻ってこられる場所にしておく
IPPOのオンライン授業でも、プレーの答えを先に渡さず、本人が感じていることを言葉にする時間を取っています。チームでも家庭でもない場所で話せることには、それなりの意味があると考えています。試合前後の会話に迷った時は、ここに書いたどれか一つから試してみてください。
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