
試合の帰り道の車の中。「なんであそこでパス出さなかったの」と聞いて、子どもが黙り込む。そんな時間を過ごしたことのある保護者は少なくありません。
グラウンドでは何度も「周りを見て」と声が飛びます。子どもも首は振っています。それでも試合になると、ボールしか見ていないように映る。
変わらない理由は、意識の低さでも才能でもありません。多くの場合、見る対象が決まっていないだけです。何を見るかが決まると、首はあとから動き始めます。
この記事では、見る対象の決め方と順番、家でできる練習3つ、親が試合で変化を確かめる見方までをまとめます。
「周りを見て」で直らないのは見る対象が決まっていないから
「周りを見て」は、大人にとっては具体的な指示です。相手の位置、味方の位置、空いているスペース。頭の中に見るべきものの一覧があるからです。
小学生には、その一覧がまだありません。「周り」という言葉だけを渡されても、視線をどこへ向ければいいのか分からない。それでも言われた通りに首は振ります。
こうして、首は動いているのに情報が残らない状態が生まれます。本人は「ちゃんと見た」と言い、受けた瞬間に背後の相手に奪われる。よくある光景です。
「見えていない」の中身は3つに分かれる
同じ「周りが見えていない」でも、中身は分かれます。手当ての仕方が変わるので、切り分けておく価値があります。
- 首を振ったが、何が見えたか覚えていない(見る対象が決まっていない)
- 見えてはいたが、そのあとのプレーが変わらない(見た情報の使い道を知らない)
- ボールを扱うだけで手一杯で、顔を上げる余裕がない(技術と同時に育てる段階)
上の2つは、家庭での声かけと練習の組み立てで変えられます。3つ目は、ボールを扱う練習の中に「見る」を混ぜていく形になります。
どれに当てはまるかは、試合後の短い会話で分かります。聞き方はこの記事の後半で紹介します。
試合になると急に見えなくなる子もいる
練習ではできるのに、試合だと固まる。これも珍しくありません。緊張すると頭の中が埋まり、見える範囲が狭くなります。
「早くボールを離さなきゃ」と焦っているとき、子どもの視界は足元に集中します。周りを見るための余白が残っていない状態です。
この場合に増やすものは、首を振る回数ではありません。試合前に「今日はこれだけ見よう」と対象を1つに減らすと、頭の中に余白ができます。
何を見るかには順番がある(ボール・味方・相手・スペース)

見る対象は4つに絞れます。ボール・味方・相手・スペース。この順に増やしていくと、小学生でも無理がありません。
最初はボールです。今どこにあるかが分からないと、ほかのものは見られません。低学年でボールばかり見てしまうのは、順番として自然な状態です。
次が味方です。誰が余裕を持っていて、誰が苦しいのか。そのあとに相手を見ます。
自分をマークしているのは誰で、どのくらいの距離にいるのか。ここまで分かると、受けたあとに前を向けるかの見当がつきます。
最後がスペース。誰もいない場所がどこにあるかです。ここまで見えると、受ける前に行き先を決められるようになります。
一度に全部は見なくていい
4つを同時に見ようとすると、たいてい何も残りません。1試合につき1つで足ります。
「今日はボールを受ける前に、後ろに相手がいるかだけ確認してみよう」。この一文で、その日の試合の目的が決まります。
慣れてきたら「どのくらい近いか」を足す。さらに慣れたら「相手が近いなら、空いている味方はどこか」まで進みます。段階があるので、途中で置いていかれる子が出にくくなります。
もらう前に確認する3つ
オンラインサッカー塾IPPOのカリキュラムでは、ボールをもらう前に確認するものを3つに決めています。数が決まっていると、子どもが自分でチェックできます。
- 味方の様子(ボールを持っている味方は奪われそうか、余裕があるか)
- マークしてくる相手(どこから、どのくらいの距離で来ているか)
- 次に出す味方(受けたあと、どこへつなげるか)
1つ目で、自分の立つ場所が変わります。味方が奪われそうなら近くへ寄ってサポートする。余裕があるなら、前で受ける準備をする。
2つ目で、受けたあとに前を向けるかどうかが決まります。相手が近ければワンタッチで返す、遠ければ持ち出す。選択肢がその場で絞られます。
3つ目まで見えていれば、受ける前から次のパス先が決まっています。ボールが足元に来てから考える時間が要らなくなります。
スペースはゴールから逆算して探す
視野が広いと言われる選手も、ピッチの全部を見ているわけではありません。見る場所を絞っています。
サッカーはゴールを取る競技なので、探すのは「ゴールに近づけるスペース」と「優位に立っている味方」です。この2つに的を絞ると、見る範囲が減ります。
IPPOの塾生からはこんな声もありました。「3対2などのポジショニングがあまりわからなかった」(子ども・中2・2026年2月アンケート)。人数が絡む場面ほど、見る対象を決めておく効果が出ます。
首振りは原因でなく「見たいもの」が決まったあとの結果
「首を振れ」と言われて回数を増やしても、プレーが変わらないことがあります。動作そのものが目的になっているときです。
順番が逆になっています。見たいものがあるから、首が動く。目的が先にあって、動作はあとからついてきます。
「相手がどこから来るか知りたい」と思っている子は、言われなくても振り返ります。知りたいことがないまま回数だけ増えても、情報は残りません。
見る・判断する・動くを切り離さない
ピッチの上では、見る・判断する・動くが続けて起きています。練習でここが切れていると、試合でもつながりません。
首を振る練習をしたら、その場で「何が見えた?」「じゃあどうする?」まで足します。ひと往復の会話で、動作が判断につながります。
答えが正解でなくてもかまいません。見た情報を使って何かを決める、という経験そのものが要ります。
顔を上げる余裕がない段階もある
ドリブル中ずっとボールを見ていないと運べない。トラップの瞬間に足元しか見えない。この状態で「顔を上げて」と言われても、実行は難しいものです。
見る力とボールを扱う技術は、一緒に育てるものと考えたほうが早く進みます。自主練でドリブルするとき、時々顔を上げて指の本数を答える。それだけで両方の練習になります。
パス練習でも、ボールが来る前に一度後ろを見る動きを足します。技術の練習に「見る」を1つ混ぜるだけで、試合に近い形になります。
親子でできる練習メニュー3つ(道具と時間つき)

家でできる練習を3つ紹介します。どれもボール1個と、親が1人いれば足ります。
3つ全部で15分あれば回せます。週に2〜3回、チーム練習のない日に10分だけでもかまいません。長さより、終わったあとの1問のほうが効きます。
ドリブルしながら指の本数を答える(5分・ボール1個)
用意するもの:ボール1個と、10メートルほどまっすぐ進める場所。時間は5分ほど。
子どもがドリブルで前に進み、その間に親がランダムで指を1〜5本出します。子どもはそれを見て、すぐ声に出して答えます。
つまずきやすいのは2つ。止まってから見る、ドリブルが遅くなる。試合と同じ速さのままできているかを見てください。
終わったら「今、どっちに運んだほうがよかった?」と1つだけ聞きます。見て終わりにしないための質問です。
リフティング中に周りの色を答える(3分・ボール1個)
用意するもの:ボール1個と、周りに物が見える場所。時間は3分ほど。
リフティングをしながら、親が周りのものを指差します。子どもは「赤」「青」と色で答えます。遊具でも、通りかかる車でも、看板でもかまいません。
要るのは一瞬だけ視線を上げることです。長く見るとボールが落ちます。落とさないことに集中してしまう子には、回数を数えないルールにすると切り替わります。
終わりに「今、何が見えた?」と聞きます。答えが「わからない」でも、次の回で変わってきます。
壁パスの間に背後を見てターンを決める(7分・ボールと壁)
用意するもの:ボール1個、蹴っていい壁、2〜3メートル動けるスペース。時間は7分ほど。
子どもが壁にパスを出します。返ってくる間に、親は子どもの後ろへ近づくか、その場に止まるかを選びます。
子どもは一瞬だけ後ろを確認して、親が来ていなければターン、来ていたらキープします。見る・判断する・動くが1回のプレーで起きる形です。
つまずきやすいのは、毎回ターンしてしまうことと、見るのが遅いこと。親が動く速さを落とすと調整できます。
「今のはターンでよかった?」「相手が来ていたらどうする?」と聞いて終わります。
メニューより終わったあとの1問
3つとも、やり方は単純です。差がつくのは終わったあとの質問のほうです。
「ちゃんと見て」では、子どもは何をすればいいか分かりません。「何が見えた?」なら答えられます。答えられる質問に置き換えるだけで、練習が学びに変わります。
答えを直す必要はありません。言葉にした時点で、見た情報が本人の中に残ります。
見る力が付いたかを親が試合で確かめる見方

見る力は、パスの本数やゴールでは測れません。相手のできにも左右されるからです。試合で見るなら、ボールを持っていない時間です。
IPPOの塾生の保護者に聞いたアンケート(2026年5月)でも、変化を感じた点として「ボールを持っていない時の動き」を挙げる方が目立ちました。
同じ時期に塾生の子どもへ聞いたアンケートでは、もっと知りたいことの1位が「パスを受ける場所」、2位が「ボールを持っていない時の動き」でした。
大人が気にするパスの成否より、子ども自身の関心はボールに触っていない時間に向いています。見るところをそこに合わせると、変化に気づけます。
試合中に見る4つ
- ボールが自分に来る前に、一度でも周りを確認しているか
- 受けたあとの1タッチ目が、相手のいない側へ向いているか
- 味方が苦しいとき、近くへ寄って顔を出しているか
- 受けてから動き出すまでの間が短くなっているか
どれも子ども自身の行動なので、試合の結果に関係なく観察できます。1試合で1つに絞って見ると、変化に気づきやすくなります。
「今日は受ける前の確認だけ見てるね」と伝えておくのも手です。子どもも、何を見られているのかが分かります。
試合後に聞く一言を変える
「だから周りを見なさいって言ったでしょ」を、「ボールを受ける前、後ろの相手は見えてた?」に置き換えます。
「見えてなかった」なら、「いつ見たらよかったかな」と一緒に考える。「見えてた」なら、「どのくらい近かった?」と一歩深く聞きます。
「見えたけど、あんなに近いと思わなかった」と返ってくることがあります。そうなれば課題は、見ること自体から距離をつかむことへ移っています。同じミスでも原因が違うと分かります。
変化は小さな工夫のほうに出る
見えるようになった子は、目立つプレーより先に小さな工夫が増えます。受ける前に半歩ずれる。体の向きを変えて受ける。
そこを見つけて言葉にします。「ボール来る前に後ろ見てたの、よかったね」。具体的に言うほど、本人はもう一度やろうとします。
見ようとする意識は、気づいてもらえた経験の中で続いていきます。
見る力は、家庭での関わり方と合わせるとさらに伸びます。試合後の声かけや試合の見方はサッカー未経験の親が家でできる関わり方に場面別でまとめました。
パーソナル相談で子どもから出た質問
IPPOのパーソナル(コーチと1対1で話す相談の時間)で、子どもたちから実際に出た質問と、コーチの答えをまとめました。学年とポジションは質問した子のものです。
Q. 首を振って周りを見ているのに、ボールが来ると何をするか忘れてしまいます(小6・サイドバック)
見るものが多すぎると、見た情報を使い切れません。まずは見るものを2つに絞ってください。1つは次にパスを出したい味方、もう1つは自分をマークしている相手です。この2つが見えていれば、受ける前に「前が空いていたら前へ、寄せられたら横へ」のように2択まで決めておけます。受けた瞬間は決めた方を実行するだけなので、忘れる余地が小さくなります。
Q. いい位置に立っているつもりなのに、パスが来ません(小6・サイドハーフ)
立ち位置が良くても、出し手に見つけてもらえなければパスは来ません。順番は「相手から少し離れる→次のプレーを決める→半身で受ける」です。動き出すのは、ボールを持った味方が顔を上げた瞬間。早く動きすぎると、出し手が見たときには相手に寄せられています。声で「ここ」と要求するのも、見つけてもらうための準備のひとつです。
Q. 首は何回くらい振ればいいですか(小3)
「10秒に2回」「30秒に1回」など、コーチによって目安の出し方は違います。共通しているのは、数えられる目標を1つ決めることです。数えられると、練習の中で意識しやすくなります。ただ、回数そのものが目的になると、振っているのに何も見ていない状態になりがちです。練習のあとに「振ったときに何が見えたか」を1つ言えるかで確かめてください。
今日からできる一歩
次の練習か試合で、子どもと1つだけ約束します。「ボールを受ける前に、後ろに相手がいるかだけ見る」。増やすのはそれだけです。
対象を1つに絞ると、子どもは実行できます。できたかどうかも自分で分かります。分かるから続きます。
終わったら「後ろ、見られた?」と聞きます。「見た」と返ってきたら、その日は成功です。何が見えたかは、次の機会に聞けば足ります。
見えるものが1つ増えると、選べるプレーが1つ増えます。焦らなくて大丈夫です。明日からの1つを決めるところから始めれば、サッカーは少しずつ考えられる競技になっていきます。
オンラインサッカー塾IPPOでは、毎回のクラスで3つの問いを子どもに投げます。「何を見る?」「何が分かった?」「じゃあどうする?」。見る対象と、その使い道をセットで扱う時間です。
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